宇平剛史: 作品集『Cosmos of Silence』のアートワークとデザインワーク

Published: 22.12.07 Category: Interviews
宇平剛史: 作品集『Cosmos of Silence』のアートワークとデザインワーク
気鋭の現代美術家・デザイナー、宇平剛史(うひら・ごうし)。自身の活動やOrdinary Booksより刊行された彼のアートワークとデザインワークで構成された初の作品集『Cosmos of Silence』について話を伺いました。
NE:
ご自身について教えてください。
GU:

東京を拠点に、現代美術家・デザイナーとして活動している、宇平剛史(うひら・ごうし)です。これまでに、人の皮膚がもつ繊細で複雑なテクスチャーを印刷表現で提示する連作《Skin》や、数千個のガラスの球体を用いたインスタレーション作品《Glass Balls》などを発表しています。近年では、2021年に横浜市民ギャラリーで個展「Unknown Skin」、2020年にNADiff a/p/a/r/tで「呼吸する書物 | Breathing Books」を開催しました。装幀を担当した書籍には、星野太『美学のプラクティス』(水声社、2021年)、沢山遼『絵画の力学』(書肆侃侃房、2020年)、荒川徹『ドナルド・ジャッド』(水声社、2019年)などがあります。

NE:
作品集『Cosmos of Silence』の内容について聞かせてください。
GU:

今回の作品集『Cosmos of Silence』は、私のこれまでのアートワークとデザインワークの両軸で構成されています。加えて、美術批評家の沢山遼さんによる論考「肌理の倫理」、 美学者の星野太さんによる文章「愛の設計」、私の生い立ちから今後の実践に関するインタビュー「静かで遅いイメージ──繊細な領域を知覚する」を収録しています。巻末には、各クレジットのほか、造本時に採用したさまざまな紙の仕様も掲載しました。

「Unknown Skin」(横浜市民ギャラリー、2021年)
荒川徹『ドナルド・ジャッド』(水声社、2019年)
NE:
作品集のタイトル『Cosmos of Silence』にはどのような意味があるのでしょうか?
GU:

今回のタイトル『Cosmos of Silence』を日本語に直訳すると「静けさの宇宙」となりますが、本書での「静けさ(Silence)」は、視覚芸術における静けさを意味します。つまり、より多くの人々のアテンション(関心)を集めることを目的とする類のイメージとは、まったく別の価値観に基づいた、静かでゆっくりとした時間の基軸をもつイメージを思考しています。私は、目の前の事物及びそれらを包む空間を、繊細に時間をかけて感覚するときにひろがる、宇宙論的あるいは神秘的な奥行きに関心があります。ここでの事物とは、植物や紙などの有機物から、水やガラスなどの無機物を含む、あらゆる存在をさします。酸素や水素といった微細な分子が漂う空間も、存在の一部です。

NE:
今回Ordinary Booksから出版されることになった経緯について教えてください。
GU:

Ordinary Booksの三條陽平さんとは、以前彼が蔦屋書店で書店員をされていたときに、ブックデザインに関するプロジェクトで協働する機会があり、当時から紙の本に対する想いや価値観を共有してきました。彼が今年、Ordinary Booksという社名で独立される際に、私の方でロゴや名刺の設計を担当することになりました。三條さんは、私の仕事を普段から丁寧にみてくださっていたこともあり、制作の流れで私の作品集に関する構想を相談したところ、快く是非と言ってくださって、今回Ordinary Booksから出版することになりました。

Cosmos of Silence(P34, 35)
アートワークとデザインワークの実践は地続きの関係
NE:
作品集『Cosmos of Silence』の制作にあたって、こだわったところがあれば教えてください。
GU:

編集の面では、単に回顧的な内容で終わらせずに、今後の実践へとつなげられるように意識しました。今回、普段から親交がある、美術批評家の沢山遼さんと、美学者の星野太さんに文章を寄せていただき、私の仕事群に、多角的な視点から洞察を与えてくださっています。装幀の面では、今回の印刷はFMスクリーンのUVオフセットを採用し、カラーの図版頁には、マットニスを全面に乗せました。このマットニスによって、図版は高精細でありながらより落ち着いた深みのあるテクスチャーになり、文字要素の特色シルバー(Pantone 10394 C)は、グラファイト(鉛筆)のような独特な質感になっています。本文印刷はサンエムカラー、表紙の箔押しはコスモテックによる仕事です。篠原紙工の手製本による、非常に美しい仕上がりも、特筆に値します。

NE:
アートワークとデザインワークのそれぞれはどのような関係性で実践されていますか?また、2つの分野で活動されるようになった経緯を教えてください。
GU:

私のすべての制作において、「あらゆる事物を固有の生ある存在として直に経験することは可能か」という問いが基層にあり、アートワークとデザインワークの実践は地続きの関係です。言い換えると、自身も含むあらゆる存在が、たった今静かに生起していることへの純粋なよろこびの感覚=感動的経験が、さまざまな制作の基点になっています。また、存在を質実に経験することは、要素と要素のあいだ、事物と事物のあいだにある空間がもつ力動や作用を経験することでもあり、存在と不在との往還のなかに自らの身体を置くことです。キャリアのはじめは主にデザインの領域で活動を行なっていましたが、こうした実践をより自主的に進めた結果、アートワークの制作に展開しました。プロジェクトの起動する要因が、内的か外的かといった違いはありますが、そうした差異も含め、美術とデザイン相互の実践が良好に影響しあっていると思います。

Skin
VISION QUEST | Goldwin×Spider(Editorial、2020年)
NE:
今後の活動予定や思い浮かべていることなどがあれば教えてください。
GU:

今年の11月30日(水)まで代官山の蔦屋書店で、作品集『Cosmos of Silence』の刊行記念フェアを開催中です。また、来年になりますが、2023年3月に中目黒のN&A Art SITEで個展を開催予定です。これまで継続的に制作を続けている連作《Skin》をはじめ、 真っ白な紙の存在及びテクスチャーを全面的に肯定する新作《White Papers》や、ガラスを用いた新作の彫刻作品などの展示を計画しています。

Images © Goshi Uhira, North East